霧縛りの職工

大したことないことを大したことないように書きたい

株式会社データX (当時、株式会社 フロムスクラッチ) における賃金未払および、その是正勧告について

趣旨

去る 2019年03月20日 水曜日、新宿労働基準監督署より 株式会社データX (当時、株式会社フロムスクラッチ法人番号 1011101056020、以下株式会社フロムスクラッチと記載) に対して行って頂いた、従業員への賃金未払に対する是正勧告について記載します。

記事に起こす事とした切掛は二点です。

  1. 2019年03月27日水曜日、労働組合を通じて他の従業員 (特に私と同様の勤務形態にあった開発部メンバ) に対して、上記の件について情報を共有したいという申し立てが、会社側の判断によって断たれていた事が分かった。
  2. 2019年04月上旬、つまり03月末日付での退職後に届いた会社側からの通知書に、是正勧告の内容そのものを口外しないよう入社時に提出した誓約書を根拠として注意が記載されていた。

株式会社フロムスクラッチにおける労働組合は実態・窓口が無く上記のような状況について相談する事ができなかった事、労働基準法に基づいた雇用契約において最低限誠実に行うべき給与支払を会社側が行なっていなかったという十分公益性のある事実を業務上の守秘義務にひっくるめて収めようとした事、いづれも承服し難いものでした。 そのため、他従業員また既に同社を退職している仲間へ広く労働基準監督署の判断が行き渡るよう、事実を基に状況を公開いたします。

履歴

  • 2019/05/24

    • 未払賃金シートの誤りについて訂正文を追記
  • 2019/05/26

    • 構成を推敲している過程で生じたと思われる、てにおはの誤りや文章上不要な語句の繰り返しを修正
  • 2019/10/14

  • 2021/10/04

    • 対象企業の社名変更に合わせてタイトル及び社名に関する記載を修正

私について

私、関口 直人 は、株式会社フロムスクラッチに 2017年05月01日 より同社開発部 (正式な呼称として、TDカンパニー) に開発職として所属しました。 役職は無く、休職期間に入る 2018年12月中 まで SaaS の開発メンバとしてスクラムに配属され、制度上裁量労働制となる環境下で働いていましたが、2018年10月に高稼働といった背景を踏まえメンタルクリニックからうつ病と診断され、時短やリモートワークを含めた稼働を行っていました。 しかし、2018年12月にうつ病の病状とは別の問題が顕在化し、結果休職に至りました。 その後、2019年03月31日を退職日として所属を離脱しています。

何が起きたか

平日深夜、および休日に会社から要求されていた稼働について、2019年1月下旬に新宿労働基準監督署に申し立てを行いました。 結果として、2019年03月20日労働基準監督署より株式会社フロムスクラッチに対して賃金の支払について是正勧告が出され、効力を発揮しています。

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会社側提出資料から算出した未払賃金の計算シート

掲載は致しませんが、株式会社フロムスクラッチ側が労働基準監督署に提出した、私の勤怠の把握状況が資料としてあります。 是正勧告の内容について私が連絡を受けたのは 2019年03月22日 金曜日 ですが、同日、会社側の提出資料のみから是正の期日である 2019年03月31日 までに支払われるべき未払分を私個人が試算したシートの一部が上記になります。 この計算には遅延損害金としての利息を含みません。

※ 2019/05/24 訂正

未払賃金の計算シートについて一点、みなし手当の列が桁を一桁ミスってます。読む側にとっては当たり前なのですが、コメント欄までは見てくれないもので、それなりに「これ本当?」という指摘がリンクして頂いた先で出ているようでしたので、改めて本文中でも訂正させていただきます。他のマス目の計算式には利用していなかったからかシートの作成当時気付けていませんでした。申し訳ありません。

会社側が提出した資料は勤怠管理システムへの入力から算出したものと思われます。 資料を基に行われた主張は、以下のようなものでした。

  • 前提として、関口 は裁量労働制で契約している社員であり、給与は既に支払われている。
  • 固定残業代として支払われているみなし残業代に時間外労働に対する割増賃金は含まれている為、「割増代金として時間辺り0.25倍した値」が支払い済みの代金を超えない場合、それ以上を支払う義務はない。
  • 休日稼働については申告に対して支払いを行っている為、関口 に対しては支払いがない。申請を行った人間には支払いを行っているため、申請を行って欲しい。

労働基準監督署への申し立てに先んじて直接問い合わせを行っていた当初、会社側は私に対して裁量労働制であるため現状以上の支払義務はないと発言していましたので、この時点で休日稼働に対する支払義務の範囲では既に一部訂正が行われています。

私と会社双方の意見や証拠を踏まえた勧告の内容としては、指導の範囲では「実態として裁量労働制に即していない」とまでは判断できないという事でしたが、就業規則を含め深夜稼働を固定残業代をみなし残業手当に含むと労働者側が読み取れるような箇所が契約内に存在しない事から、深夜・休日に対する残業代をみなし残業手当とは別途計算し支払うようご指導頂きました。 また、休日の稼働体制について、そもそも申請を受けて支払いを行うという支払形態そのものに問題があり、会社側は労働者の稼働状況の実態把握に努め適切に給与を支払うべきである事も指摘して頂きました。 開発部では「深夜/休日稼働確認シート」のようなスプレッドシートによって時間外の作業における作業内容のコミットメントと成果の把握を行っていましたが、それに対して支払いに至っていない状況が法的に不適切であるとご指導頂いた認識です。

把握済みの深夜稼働に対する割増賃金を、監督署が指導可能な未払賃金として受け取る事が出来ており、一旦の成果が出ている状況です。

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是正勧告に基づいた未払賃金の入金記録

同僚、および過去株式会社フロムスクラッチに属していた仲間に対して

前述のように、株式会社フロムスクラッチにおける賃金の支払い形態については労使協定、就業規則から明確に未払いが存在する事が指摘されており、少なくとも申し立てを行った私個人に対しては一部支払が発生しました。

加えて、私は既に請求に関して弁護士に委託を行っており、裁判所を通じて勤怠管理システム以外の様々な情報から法定休日中の稼働も含めより実態に近い稼働状況を算出するための情報を開示させる方向で進めています。 2018年12月からしばらくは個人で交渉や証拠集めを行っていたのですが、休職中に行った労使協定や就業規則の開示請求に対して実際に提供を行う取り組みが行われなかった事で困難を感じ、労働基準監督署に相談を行いました。 会社側が労使協定や就業規則の資料提供を従業員である私に対して行ったのは、監督署の担当者が指導を行ってからで、私の開示請求からは1ヶ月以上を要しました。 重ねて、労働基準監督署ヒアリングを行うためのアポイントメントが二度に渡ってリスケされた事で、同社に対して企業として真っ当な姿勢は望めないと判断せざるを得ず、以降裁判所命令を含めた措置を行って頂くため、弁護士への委託を行う事としました。 個人では企業の協力がない限り獲得が難しい資料も裁判所からならば請求が可能ですので、時間的・実務的に個人で事に当たるよりもプロに頼る方が現実的だろうという判断です。

本来であれば、こういった情報をきちんとした場で、正規雇用の従業員として現労働組合の所属メンバに対して共有したかったのですが、残念ながらそれは難しいものでした。 私が休職するきっかけとなった部長による私へのハラスメントに対応するよう願い出た際の面談の場に代表者はいませんでした。 労働基準監督署の指導があったように、労使協定に基づき裁量労働制が運用され給与の支払いが適切に行われるよう従業員の代表として活動した実績がありません。 実際には相談窓口がなく、相談を持ちかけようとしても、企業側の判断によって実際に他の労働者に対して情報共有や相談を行おうとするとそれを阻まれます (公平のために会社側の発言を取り上げますが、プライベートにおいて独力で各社員と連絡を取り合う事には関与しない、会社が賃料を支払い提供している執務室を含めた場所ではそういった目的で社員に声をかける事を会社の権利として許可しないという事です)。 会社側があると主張する株式会社フロムスクラッチ労働組合は私と会社側のやり取りには一切現れておらず、実態として機能していませんでした。

現在の開発部に所属している皆さんに対しては、是正勧告を出して頂いたのが2019年03月ですので以降の給与支払は最低限その勧告内容に準じたものになっている事を一社会人として望みます。 同社のメンバは、勤務を続けていた当時の私も含め、どちらかと言えば給与の額や支払い状況よりも自身の実績や成長を重んじ、ある意味で個人的な採算を度外視した働き方をしている傾向にありますが、勧告に対して会社がどのように対応したかは少なくとも認識して頂くべきだと考えています。

これから

請求の状況として。

是正勧告は出されましたが、範囲も部分的なモノですので、今後は裁判所を通して様々なやり取りが行われる事になります。 これに関しては、私が従事していた体制が法的にどのようなものであったか確認しておきたいという意味もあり、開発部全体に対して会社側が敷いていた体制が裁量労働制と言えるものであったかどうかも含め、追求していく事になります。

賃金未払に対する労働基準監督署の対応が進み客観的な資料も揃ったため、うつ病に対する労働災害の申請も行っています。 会社からは2018年12月の面談にて、労働災害の申請を認定されない可能性が高いと会社側からは説明を受けましたが、弁護士からは (稼働時間に対する) 証拠の客観性が高く十分認定される可能性がある、監督署担当者からは稼働時間だけでは難しいかもしれないが他に該当し得る要素があり (絶対にとは言えないが) 認定される可能性はある、と意見を頂いておりこちらの結果も一つの補償として期待しています。

個人の状況として。

話の枕としてフロムスクラッチの退職について触れましたが、2019年05月現在、病状は落ち着き次のキャリアを歩み始めています。 元々、治療としては12月に有給を利用し始める時点で2ヶ月程メンタルクリニックに通い病状と向き合いながら精神・生活の改善に努めた事で回復傾向にありました。 3月には抗鬱剤の投薬は完了して、経過観察に移り睡眠薬を生活のリズムを整えるために服用する程度になりました。 家族や昔からの友人にも相当心配をかけていましたが、機会を見つけて元気な顔を見せているうちに思ったよりも状態は悪くなさそうだと解って貰え、新しい門出の報告を喜んで貰えています。

就業後の稼働時間については正常化され、自分自身の学習を進める時間を業務外でも取れそうです。 職場で実際に必要とされるスキルを身に着けるのはもちろんですが、それ以外の時間でエンジニアとしての自学自習を推し進めていきたいという意欲が湧いています。 年明けから数ヶ月は開発作業を含めたスキルアップとは距離をとって休息に重きを置いてきましたが、心の持ちようや自己表現の方向性、意思の発露の仕方など、ある部分では以前よりも人間として成長できたのではないかなと感じています。

以上、株式会社 フロムスクラッチ における賃金未払および、その是正勧告について、私とその周辺の現状の取りまとめでした。