霧縛りの職工

大したことないことを大したことないように書きたい

ミッドナイト・スカイについての備忘録

1/30 Netflix

久しぶりに映画の感想。

昨年は年始に筆を取る気を重くさせるような事があったりでちょっとした備忘録を全然書けなかった。これを書こうかなというネタはぽつぽつあったのだけれど、変に気合を入れてしまってむしろボツになったり。

本年は相も変わらず、気軽に、思うところをぽつぽつと投下していければというところ。

TL;DR

SF としての期待はほどほどに。

映像や音楽に価値を見出せるか、物語の結末に納得できるかが問題。

個人的にはあんまり。

作品概要

Netflix オリジナル映画。

https://www.netflix.com/title/80244645www.netflix.com

監督・製作・主演、ジョージ・クルーニー

原作、「世界の終わりの天文台」。こちらについては未読。

トレーラーは印象的で、視聴のきっかけになった。

www.youtube.com

ネタバレ度

物語の結末に関わる重要な要素に触れる。

大気圏を隔てた人と人の接近を描く

ベースは SF チックな終末系

人類文明の滅亡はいくつかの描写的には核戦争のようにも思えるが、作中では特に名言はされていない。

何らかの要因による滅亡の危機は劇中の相当前から予見されていたらしく、木星の衛星 K23 へ植民が行われている。

主要な登場人物は2グループに分けられる。 北極圏に残り辛うじて一人生き長らえている研究者のオーガスティン、そして木星の植民地で役目を果たし地球への帰路にある宇宙船アイテルのクルー達だ。

宇宙船アイテルのクルー達は物語の3週間前から地球からの通信が途絶しており、その理由を知らない。一方でオーガスティンはその原因である文明の滅亡を把握しており、クルー達の地球への帰還が叶わない事、木星に戻るべきである事を知っている。宇宙船アイテルとの通信のため極北を通信施設へ移動するオーガスティンと、状況を掴めないまま故郷への思いを募らせるクルー達、双方の接近がシナリオの軸になっている。

北極圏に残った研究者と木星から帰還するクルーのたった一度の接触

この映画が演出しているのは孤独や不安を超えて、登場人物がそれぞれの居場所へ帰ろうとする姿である。

SF 的な深い洞察や考証に基づいたイベントの数々は関心ではない。

原作はともかく、映画においては文明滅亡に関するバックグランドはほぼ何も語られないし、衛星 K23 への植民や往来のための宇宙航行に関わる技術に関しても触れられていない。

その一方で、「人」の生活とそこに現れる心情が一つ一つのシーンで丁寧に描かれており、監督ジョージ・クルーニーがこだわったという音楽もそれをバックアップしている。1

一本の映画として作品を引き締めるのは、北極圏を旅する研究者オーガスティンと宇宙船アイテルのクルーの一人であるアイリスの父娘関係だ。

オーガスティンは研究に人生を費やしており、アイリスの姿は一度遠目に見たのみ。父親として接した事がなく、アイリスもまたオーガスティンが父親である事を知らない。

吹雪の中、苦難を乗り越え遂に通信施設に辿り着いたオーガスティンは宇宙船アイテルの通信士であるアイリスと会話する。

地球がもはや人類の生存を許さない環境になっている状況を告げ、衛星 K23 へ折り返すよう指示、地球に残っていた人を代表しクルー達の故郷を護れなかった事を謝罪する。対してアイリスは感謝で答える。地球の惨状を伝えてくれた事に対してだけではなく、そこにはアイリスが宇宙を志したきっかけになるオーガスティンがかつて妻に渡していた月の石や、父親と知らないままに憧憬を抱いていた研究者の背中への思いが込められていた。

身を粉にして従事した研究、人類滅亡をただ一人生き残った孤独、そして北極の悪路を乗り越えた先にある娘の生存への気付きこそが、オーガスティンが無自覚に求めていた救いだったのだ。

総評

本作における大きな要素は登場人物の心情に対するを時間や空間、音楽を用いた演出であり、そこを評価できるかどうかで印象が大きく変わるだろう。 個人的には可もなく不可もなくというか、強いて言うなら、不可寄りだった。

人物の感情を大切にした自然な間の演出は割と好む方ではあるのだが、途中でやや飽きが来てしまった。

SF として見るべき新規性や造形美は特筆するほどかというと疑問がある。シナリオ上ぽつぽつと配置されたトラブルは立ち向かうべき困難というよりも取ってつけた感が否めない。 オーケストレーションは多くの部分では自然なサポートをしていた様に思うが、驚きの演出として唐突に鳴り響くドラムがむしろギャグっぽくなったり、細かいところで白けさせる方向に働いてしまっていた。

シナリオ構成は面白く、主人公であるオーガスティン、宇宙船アイテルの通信士アイリスを含めたそれぞれの登場人物にとっての帰るべき場所はどこにあるのかという物語上のテーマはよく成立していたが、一方でプロットの合間の肉付けに甘さを感じた。